前回は、「IRレベル3」の(その1)まで解説し、投資家が企業を「理解」している状態では十分ではなく、「納得」するレベルまで引き上げられなければ投資はされない、とお伝えしました。
もうここまで来ると、投資家は「納得」している状態なので「投資」を「決断」すると思われがちですが、ここで大きな山があり、通常はまだ決断には至りません。
「口コミ」の影響力
例えば、「アマゾン」で何かを購入したり「ぐるなび」でお店を選ぶ際、「口コミ」を参考にされる人は多いのではないでしょうか?
人は何かを決断する際に、自分の考えだけでは不安なので、第三者の意見や見解である「口コミ」を参考にします。そしてこの「口コミ」はかなりの影響力を持っているのも事実です。
株式投資も同様で、実はファンドマネジャーなどのプロの投資家でさえも、企業説明会に行ったり会社を訪問したりして直接取材しているにもかかわらず、果たして投資して良いのかどうか確信が持てないので、様々な手法で情報収集を行ったり、第三者の意見や見解を求めます。私もランチミーティングなどで、ファンドマネジャーに「あの会社どう思いますか?」と、よく質問されます。
この様にファンドマネジャーが投資を決めかねている際に参考にする資料が「アナリストレポート」です。
投資の失敗は、多額の資金を運用するファンドや運用会社にとって大きな損失となり、自分のキャリアを失いかねないファンドマネジャーにとっては、自分以外の第三者、それも企業分析のプロである「アナリスト」が「企業のどこを見て、どう判断しているのか」という第三者の意見を大変重要視しています。
そして第三者の意見や考えの重要性は、前述したアマゾンなどの「口コミ」とは全く違う「株式投資独特な仕組み」に起因しています。
投資を決定づける「アナリストレポート」
株式投資の場合、自分だけが企業Aがいい、将来性があると思い株を買っても、その後に自分以外の投資家が企業Aは将来性があると思い、株を買わなければ株価は上がらないのです。
逆に複数の投資家が企業Aの株価は下がると判断して株を売り出すと株価はどんどん落ちていくのです。つまり、いくら自分の考えでは株価が上昇すると思っていても、第三者の考え次第で株価は上がることもあるし下がることもあるということです。
この点が株式投資と物やサービスの売買やレストラン選びと違い難しいところで、買っておしまいではなく、自分が買った企業Aの株価がその後上昇しないと自分は損をする「リスク」を伴うのが株式投資なのです。
そして自分のお金ではなく、他人のお金を、それも大量、億あるいは数十億円単位で預かり株式で運用し、増加させるのがファンドマネジャーであり、このファンドマネジャーヘ最も影響力のある「口コミ」が「アナリストレポート」なのです。
例えばもしファンドマネジャーが把握していなかったA社の株価が落ちる「リスク」を「アナリストレポート」が指摘をしていれば、ファンドマネジャーはその「リスク」と自分が考えるA社の「将来性」を様々な要因や時間軸も考慮に入れ天秤にかけ、投資判断をするのです。
企業の「将来性」や「リスク」「社会情勢」など様々な内部要因や外部要因を踏まえた上で投資し、「継続して」高いパフォーマンスをあげて成功しているのがプロの投資家と言われる人たちのファンドマネジャーです。たまたま、まぐれで単発的に当たることはあっても、「長年にわたり」高いパフォーマンスを継続して上げ続けるファンドマネジャーは滅多にいません。逆にいうと、この業界に長く存在しているファンドマネジャーやアナリストはすごい目利き力のある実績のあるプロ中のプロなのです。
話を戻すと、アナリストによる「アナリストレポート」はファンドマネジャーに対し、投資を決定づける最も重要な資料と言えます。
投資されるためには、「IRレポート」ではなく「アナリストレポート」が必要
企業の皆さんや個人投資家などの中に誤解されている方が多いのですが、株式投資の世界で「レポート」と呼ばれるものは、「IRレポート」と「アナリストレポート」と大きく分けて2種類があります。
「IRレポート」は企業概要やビジネスモデルを説明する会社案内やホームページの内容をまとめたものに決算状況が加えられているもの、つまり会社の事実事項のみ記載されているものです。
この「IRレポート」のことを「アナリスレポート」だと勘違いしている企業や個人投資家が非常に多いのには驚かされます。
これは、一部の「IR支援企業」が自社の発行する「IRレポート」を「アナリストレポート」と表現し誤解を与えているからです。
「IRレポート」は、初めて企業を知る際、会社概要やビジネスモデル、業績など「事実」がまとめてあるので企業をざっと知る上では便利な資料と言えます。
しかし、書かれている内容は「事実」のみで、有価証券報告書に全て書かれている内容で「アナリストレポート」の様に「分析」やアナリスト独自の考えなどはほとんど記述されておらず、プロの投資家が投資を決断する際に最も重要な指標としている「投資判断基準」は記載されていません。
「アナリストレポート」の5つの投資判断基準
一方、今回テーマの「アナリストレポート」にはプロの投資家が投資を決断する際に、指標としている5つの投資判断基準が記述されています。
5つの投資判断基準とは
1)レーティング
2)目標株価
3)バリエーション
4)カタリスト
5)業績予想
です。
私はこの5つの指標である投資判断基準が記載されていないレポートは「アナリストレポート」とは言えないと思っています。
各項目の詳細については、次回以降のコラムで解説します。
読者の皆様におわかりいただきたい点は、
「アナリストレポート」の中で、この5つの投資判断基準について、アナリスト「独自」の考えや分析結果が記述されており、投資に関しての判断(ジャッジ)をアナリスト自身が下していることです。
この「独自」の分析と判断とは、アナリストが延べ数千社にも及ぶ面談や経験で身につけた研ぎ澄まされた感性、いわば独自の企業を見る目によるもので、企業分析のプロとしての威信やプライドをかけて記述しているのです。
ところでみなさんは、年に一度、例年4月1日ごろ、日経ヴェリタスからセクターごとに「アナリストランキング」が個人名で発表されるのはご存知でしょうか? 投票するのは、機関投資家、ファンドマネジャーです。
私は、この「アナリストランキング」は「アナリスト」個人に対するファンドマネジャーからの信頼度の高さを表しており、「アナリストレポート」のマーケットへの影響力を反映していると思っています。
アナリスト個人がランキングづけされているのがポイントで、アナリストレポートならなんでもよいという訳ではなく、誰が書いたアナリストレポートなのかという事が重要です。
つまりランキング上位のアナリストはマーケットへの影響力は計り知れず、多大ということです。
企業にとっての「最強の武器」
投資家にとって「アナリストレポート」の重要性は充分にご理解いただけた事と思いますが、企業にとっても「最強の武器」でもあります。
「アナリストレポート」は、
投資家にとっては、企業を理解し納得している状態から、「投資の決断」を後押ししてくれる重要な資料です。
見方を変えると投資家から投資され、株価=企業価値をあげたい企業にとっては、「最強の武器」の一つと言え、「アナリストレポート」が「ある」企業と「ない」企業では、株価に大きな違いが出てきます。
私は、企業のIRの力量を測る評価の指標は、「何社からアナリストレポートが発行されるか」だと思っています。真の投資家の動向はアナリストレポートから始まるといっても過言ではないのです。
企業の皆さんは「アナリストレポート」が発行されるべく、ファンドマネジャーのみならず、アナリストとの関係性構築に尽力していただきたいと思っています。
以上「IRレベル3」(その2)でした。次回は、「IRレベル」の解説の最終回「IRレベル3」(その3)として、投資された後、株価をさらに継続的にあげるための手法を解説します。
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